10.マインドコントロール論の限界

保護説得レポート

マインドコントロール論の限界

注目すべきは、このような非合法な行為がいまだに行われているのは、先進国では日本だけだという点だ。

アメリカでも、一部宗教の信者などに対し、「ディプログラミング」と呼ばれる拉致監禁説得が、70年代から活発に行われていた。実行するのは、家族から雇われた「ディプログラマー」と呼ばれる、脱会のプロである。

ところが、相次ぐ裁判を契機に、水面下で行われていたディプログラミングの実態が暴かれ、「犯罪行為」として社会の批判にさらされるようになる。80年代に入るとディプログラミングは徐々に衰退し、新たに臨床心理士や精神科医などが中心となって、信者の自主性を尊重した「強制力を伴わない説得」が模索されるようになった。

これにはアメリカの風土も影響している。同国はプロテスタントが主流の多宗教国家だが、カトリックから迫害を受けたプロテスタントの歴史を教訓に、「自派とは別の宗教を弾圧する行為」には批判的で、国内の代表的な宗教団体である「全米キリスト教会協議会」は、早くも74年にディプログラミングに反対する決議を採択している。

一方、ヨーロッパでは、カルトに厳しいのにディプログラミングという行為自体はほとんど行われていない。フランスはカルトを取り締まりの対象とする「反カルト法」を制定している。

にもかかわらず、たとえカルトであっても信者を直接説得するのはあくまで家族が基本で、カウンセラーは信者本人に会うことはなく、もっぱら家族に助言を行う役割に徹している。

「カルトは人権侵害団体だが、そのカルト信者をディプログラミングするのもまた人権侵害」というわけだ。

このように見てくると、日本の特殊性が浮かび上がってくる。統一教会信者だけ(数年前までは一部「エホバの証人」信者にも)を対象に強制説得が行われ、そこにキリスト教の一部牧師が積極的に関わっている―という特殊性である。

では、アメリカで衰退したディプログラミングがなぜ日本では逆に活発に行われるようになったのだろうか。

おそらくそこには「マインドコントロール論」が影響している。

93年に「私は統一教会にマインドコントロールされていました」と山崎浩子が記者会見で脱会宣言をして以降、オウム事件を媒介に、「マインドコントロール」という言葉が洪水の如くメディア上に溢れ、カルトといえば「マインドコントロールを駆使する団体」と考えられるようになった。

そして、次のような言説によって”保護説得”は大義名分を獲得し、救出カウンセラーを名乗るキリスト教の牧師が、信者家族にとっては救世主となったのである。

<信者は自らの意志ではなく、マインドコントロールによって入信した。それを解くには、教団の影響下から隔離して洗脳を解かなければならない>

いかにも説得力がありそうな言説だが、現実にはアカデミズムの分野ではすでに「マインドコントロール論」の有効性を否定する流れが主流となりつつある。

私も”作られた言説”として批判(拙著『教祖逮捕』参照)したが、否定されるべき理由を2点に絞って、ごく簡単に説明しておく。

マインドコントロール論を日本に普及させた社会心理学社の西田公昭(静岡県立大学看護学部助教授)によれば、「マインドコントロールとは、他者が本人に知覚されないままに個人の『意思決定過程』に心理的に影響を及ぼすことと同義語である」という(西田著・『マインド・コントロールとは何か』)。

しかし、よく考えてみればわかることだが、そもそも「人が他者の影響を受けずに(つまり、マインドをコントロールされることなく)、商品を購入したり、政治的見解を述べたりなどと、何かを決定する」ことは、テレビのCMや流行を見れば明らかなように、本来、行り得ないことなのである。

必要以上にマインドコントロール論が絶対化され、濫用されてきた、とも言えるだろう。

もう1点、ぜひとも挙げておきたいのが、「マインドコントロールを使用している」とされる宗教団体の、実際の入信率の低さである。

この点については統一教会も例外ではない。イギリスの著名な宗教学者、アイリーン・パーカーの調査によれば、「セミナーを受講した統一教会信者のうち、2年後も信者として残っている者」は、全体の4%に過ぎないという。

さらに日本統一教会の元伝道部長、横山修が行った調査でも、「2日間合宿」を受講した者のうち、そのまま信者になった人問はわずか2%だ。仮に統一教会が何らかの”特殊な心理操作”を行っていたとしても、ひっかかるのは2~4%。有効性があるとは言い難いのだ。

だが、反統一教会陣営にとっては、いまだに「マインドコントロール論」は有効なようだ。今年3月に「統一協会問題キリスト教連絡会」が出版した小冊子『これが素顔!』では、<あなたもかかるマインドコントロール>と注意を促し、次のように記している。

<彼は自分は自由意思で入信したと思っているのです。しかし彼の『選択』は、あらかじめ組織が道筋をつけていた道を、操り人形のように進んできたに過ぎませんでした>

昨年から今年にかけて統一教会・大宮教会に所属する2人の女性信者、そして新宿教会に所属する1人の女性信者が相次いで行方不明になった。

3人とも「突然姿を消す理由」はまったくなかったし、うち1人は、仲間の信者の目の前で、工事作業員を装ったとみられる数人の男性によって強引に車に引きずり込まれている。いまだ、犯人や背後関係は不明である。

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